健康の広場

膀胱ガンの話し

2015-03-05

 膀胱ガンは一年間で、一万人に一人の割合で発症する比較的珍しいガンです。60歳以上の男性に多く、女性の約4倍発症します。喫煙者や、特殊な化学薬品を扱う仕事に従事した人に多く発症します。若年者より高齢者の方が悪性度が高いと言われています。
 膀胱ガンは自覚症に乏しく、多くは尿が赤いのに気付いて発見されます。7割は表在性で、内視鏡で切除出来ますが、再発率が高いのが特徴です。ガンが膀胱壁の深部まで及ぶと、膀胱を切除しなければなりません。膀胱を全部摘出すると、腎臓で出来た尿は膀胱に溜めることが出来ないので、尿の出口を下腹部に増設する必要があります。そして下腹部に作られた尿の出口には、尿を溜める袋を付けることになります。こうなると日常生活では、相当な不便を強いられることになります。
 健康診断の尿検査では、肉眼では見えないわずかな血尿を検出することが出来ます。血尿の頻度は男性より女性の方が多く、沖縄県で行った住民調査では男性の3.5%、女性の12.3%に血尿が見られました。当院では高血圧や糖尿病などの慢性疾患をもった患者さんには、毎月尿検査を行っていますが、昨年のある1ヶ月間に行った尿検査を集計してみると、男性で39%、女性で67%と住民調査の結果に比べ、高率に血尿が見られました。但しこれらは、肉眼的血尿ではなく、尿潜血と言って試験紙を使ってわかる程度の微量な血尿です。
 血尿から疑う病気としては腎炎、尿路感染、尿路結石、尿路系ガンなどがあります。膀胱ガンの場合、肉眼的血尿で発見されると、進行ガンの場合が多いので、早期発見が重要となってきます。当院では過去9年間で9人に膀胱ガンが見つかっていますが、このうち肉眼的血尿などの自覚症で見つかったのが5人、尿潜血で見つかったのは4人でした。自覚症で見つかった5人のうち2人は進行ガンでしたが、尿潜血で見つかった人はいずれも早期ガンでした。
 尿検査は苦痛もなく、簡単に行える検査ですが、発見される病気は多く、特に尿路系の悪性腫瘍の早期発見には有用です。尿潜血が急に出現してきたときは、尿の細胞を検査してガン細胞がないかどうかを調べたほうが良いでしょう。エコー検査も有用です。当院では悪性腫瘍が疑われるときは泌尿器科に紹介しています。健診で尿潜血が見られたときは、一度これらの検査を受けましょう。
 

フレイルってなに?

2015-03-05

 昨年日本人男性の平均寿命は80.2歳と、ついに80歳の大台に乗り、世界4位となりました。女性は86.6歳で前年同様世界1位でした。今後日本は急速に高齢社会となっていきます。長寿そのものは喜ばしいことですが、多くの人は死亡する数年前から介護が必要な状態となります。そして最近は、介護を必要とする前段階の高齢者を表す言葉として「フレイル」が注目されています。フレイルとは、年齢に伴って筋力や心身の活力が低下した状態のことです。もともとはフレイルティー(弱さ、虚弱)という意味の英語で、欧米では既に20年ほど前から使われている言葉です。
 人は誰でも年をとると徐々に体力が落ちてきます。筋力が落ちた状態をサルコペニアといい、骨がスカスカになった状態を骨粗鬆症といいます。これらを合わせた状態をロコモティブ症候群と言っていますが、フレイルは更に、気力まで低下した状態のことを言います。ある調査によると65歳以上の人の11%がフレイル状態でした。これを日本人全体に当てはめると、およそ300万人の人がフレイルであるということになります。
 フレイルの診断としては、①体重減少(1年で2~3kgの減少)、②最近疲れやすくなった、③筋力が低下した(例えば、買い物で2リットルのペットボトルを運ぶのがつらくなった)④歩くのが遅くなった(横断歩道を青信号の間に渡るのが難しくなった)、⑤身体活動性の低下(趣味のサークルなどに行かなくなった)の5つの項目の中で、3つ以上当てはまるとフレイルの疑いがあるとされます。これらは単なる老化現象とも言えますが、体力、気力が低下すると、他人と会うのもおっくうになって閉じこもり状態になり、認知症にもなりやすくなり、やがて介護が必要な状態になっていきます。いわば病気予備軍というわけです。
 フレイルを予防するということは、いつまでも元気な高齢者でいるということです。具体的な予防法としては、①タンパク質を中心としたバランスの良い食事をとる(牛乳やヨーグルトがお勧めです)、②ストレッチ、ウオーキングなどの運動をする(前回のサルコペニアの話の中で紹介したスクワット、足踏み体操も有効です)、③認知機能を時々チェックする(昨日の夕食のおかずを思い出せなくなったら要注意)、④感染を予防する(インフルエンザや肺炎球菌のワクチン接種をしておく)、⑤手術後は特に体力が落ちるので、リハビリをしっかりとする、⑥薬の多い人は主治医と相談して減らしてもらう(6種類以下にするのが望ましい)の6つを心がけましょう。
 長い人生、元気な老後を過ごすために、フレイルにならないようにしましょう。

サルコペニアの話し

2014-11-26

 最近健康番組などで、「サルコペニア」という言葉が出てくるようになってきました。サルコペニアとはギリシャ語で「肉」を表すサルコと、「喪失」を意味するペニアを組み合わせた、「筋肉の喪失」という意味の造語です。年をとるに従って、全身の筋肉量が徐々に減少し、筋力が低下してくる症候群のことをいいます。
 人間の筋肉量は30歳頃がピークで、その後徐々に減少し、60歳を過ぎると急激に減っていきます。下肢の筋肉量が減ると転倒しやすくなります。サルコペニアの診断は、歩く速度をまず測ります。65歳以上の人で、50メートルを歩くのに1分以上かかり、握力が男性で30kg以下、女性で20kg以下の人は筋力が低下しています。それらの人で筋肉量が減少していればサルコペニアです。筋肉量の測定は特殊な機械を必要としますが、簡単な方法としては、ふくらはぎ(下腿)の最も太い部分を親指と人差し指で作った輪がすっぽり入れば、筋肉量が減っていると判定され、サルコペニアということになります。
 最近は「サルコペニア肥満」が更にクローズアップされるようになりました。サルコペニア肥満とは「隠れ肥満」とも言われ、足の太さは若い頃と変わらないのに、実は筋肉は減少し、その代わりに脂肪が増えた状態のことをいいます。サルコペニア肥満の人の下肢のMRIを撮ってみると、下肢の筋肉が脂肪に置き換わり、霜降りのロース肉のようになっています。サルコペニア肥満の人は、転倒しやすいのはもちろん、糖尿病になる確率も増えてきます。
 サルコペニアの予防は、まず下肢の筋力をつけることです。両足を肩幅程度に広げて、そのまま立った状態から、前かがみにならないようにして、膝を90度ぐらい曲げるスクワット運動をします。座りこんでしまうと膝を痛めるので、90度程度にしてください。倒れそうな時は、テーブルなどに手をついても構いません。これを10回ずつ、朝、昼、夕の3回行って下さい。更に真っ直ぐ立って、膝を高く持ち上げる足踏み運動をして下さい。これも10回ずつ、朝、昼、夕の3回行いましょう。
 サルコペニアを予防する食事としては、良質なタンパク質(大豆類、鶏肉、魚、チーズ、牛乳など)をしっかり摂ることと、ビタミンB6(レバー、魚の赤身、ピーナッツなど)、ビタミンD(イワシ、サケ、サンマ、干し椎茸など)も良いとされています。ビタミンDは腸管でのカルシウムの吸収を促し、骨粗鬆症の予防にもなります。

トイレが近くて困っていませんか?

2014-08-28

 「急にトイレに行きたくなり、間に合わないかとヒヤヒヤする。時には間に合わなくて、失禁する。昼間何度も(8回以上)トイレに行きたくなる。夜中に必ず1回はトイレに起きる。」このような症状の人は、過活動膀胱かも知れません。過活動膀胱は40歳代より徐々に増え始め、40歳以上で10人に1人が過活動膀胱の症状があると言われています。過活動膀胱の症状のある女性の約半数は切迫性尿失禁(尿漏れ)も経験しています。
 腎臓で作られた尿は尿管を通って膀胱にためられます。通常150ミリリットルぐらいたまると尿意が始まり200~300ミリリットル位たまったところで排尿します。1日の尿量は約1.5リットルですから、1日で5~8回トイレに行く計算になります。膀胱に尿が貯まるときは、交感神経の働きで膀胱の筋肉は緩んでいます。尿を出すときは、副交感神経が働いて膀胱の筋肉が縮みます。
 過活動膀胱はこの交感神経と副交感神経のバランスが崩れて、突然膀胱が縮むことによって起こります。原因の一つは脳卒中などの後遺症で、脳と膀胱の筋肉を結ぶ神経に障害が生じることで起こります。また女性の場合は出産や加齢によって、子宮、膀胱、尿道などを支えている骨盤底筋が弱くなって起こります。骨盤底筋が弱くなると、尿漏れも起こしやすくなります。男性の場合は、多くは前立腺肥大が原因となります。前立腺は膀胱の出口にあって尿道を取り囲むような形をしたクルミ大の組織です。50歳を過ぎると徐々に大きくなり、排尿に勢いがなくなったり、何度もトイレに行きたくなったりします。  
 過活動膀胱の治療は問診や尿検査、レントゲン、エコー検査などを受けた後、薬が開始されることもあります。薬を使うほどでもない段階では、日常生活上の工夫として女性の場合は膀胱訓練と骨盤底筋訓練がお勧めです。膀胱訓練とは、尿を出したくなったら少しがまんをすることです。5分ぐらいから始めて、少しずつがまんする時間を延ばしていきます。これによって膀胱に貯める尿量を少しずつ増やすことができます。但しあまり我慢すると膀胱炎になる危険もあるので30分ぐらいまでにするのが良いでしう。骨盤底筋訓練は排尿が終わったあと、肛門をギュッと締める訓練です。排尿時以外でも、1日に何回か肛門をギュッと締める癖をつけましょう。男性の場合は前立腺肥大が原因になっていることが多いので、泌尿器科を受診し検査を受けてください。軽症の場合は薬で治療しますが、重症になると手術が必要になります。

紫外線の話し

2014-06-30

連日暑い日が続いています。この季節は、熱中症対策とともに紫外線対策も重要です。紫外線とは地表に届く光の中で、最も波長の短いものです。紫外線は波長によって、更にA,B,Cの3つに分けられます。C領域紫外線(UV-C)はオゾン層でブロックされるため地表には届きません。B領域紫外線(UV-B)はオゾン層で完全にブロックされず、近年オゾン層が破壊されるに従い、その量は増えています。そしてこのUV-Bは体に様々な障害を与えることがわかっています。紫外線は1年のうち夏が最も多く、南になるほど多いので、例えば沖縄の人は北海道の人の約2倍の紫外線を浴びています。また高地になるほど紫外線は多くなるので、夏山登山の際は多くの紫外線を浴びることになります。
紫外線の急性期障害で代表的なのは角膜炎と陽焼けです。スキーに行った夜に目が真っ赤になり、眼痛を訴えることがあります。雪面など紫外線の反射が強い場所で起こり、「雪目」として有名です。通常2~3日で軽快します。また夏は海水浴に行って帰ってくると、肌が真っ赤になり、ヒリヒリと痛くなります。数日すると皮がむけてきて、肌は黒くなります。これは皮膚の細胞に含まれるメラニン色素がたくさん作られるためです。この変化は通常一過性のもので、時間が経つと肌の色はもとに戻ります。しかし、沖縄のように紫外線の強い地域で住んでいる人は、紫外線の影響が慢性的に出てきます。
紫外線の慢性障害として代表的なのは、目では白内障と翼状片があります。翼状片とは白目(球結膜)の部分が黒目(角膜)に侵入する増殖性の繊維組織で、瞳孔近くまで増殖すると視力障害を来たします。肌の障害では皮膚がんが有名ですが、日本人は皮膚がんの発症率は少なく、オーストラリアやニュージーランドの人に比べ約100分の1の発症率と言われています。
紫外線は骨を作るビタミンDの合成に関わっているため、全く浴びないと、くる病や骨粗鬆症になります。北欧では冬は太陽が出ないために、夏になると人々は公園で日光浴をするそうです。日本は北欧に比べ年間の紫外線量は多いので、1日のうち日なたなら15分、日陰で30分程度の日光浴でくる病や骨粗鬆症は予防出来ます。通常の日常生活で十分な紫外線は浴びているので、神経質になる必要はありません。
紫外線障害の予防としては、帽子やサングラスで目を保護しましょう。帽子で20%、サングラスで80%の紫外線を防御出来ると言われています。外出の際は傘をさして、日焼け止めクリームを塗り、なるべく肌を露出しない服装を心がけましょう。

再生医療について

2014-05-09

理化学研究所の小保方晴子さんが発見したとされる「STAP細胞」の論文に瑕疵があり、世間が大きく揺れています。ノーベル賞を受賞した山中先生のi-PS細胞に勝るとも劣らない万能細胞を発見したとして、当初は日本中が沸き上がりました。しかしその後論文に掲載されたデーターが捏造ではないかとの疑いが起こり、小保方さんの名声は地に落ちた状態となっています。小保方さんの釈明の記者会見を見ていると、自分自身昔に博士論文を書いた時の苦労を思い出し、非常に複雑な気持ちになりました。「本当にSTAP細胞はあるのですか?」との問いに、間髪を入れず「STAP細胞はあります!」と高らかに答えた姿に嘘はないと信じたいと思います。
ところで、i-PS細胞や「STAP細胞」が何故大きな発見なのでしょうか?これらの細胞は人間の全ての臓器を作る元となる万能細胞だからです。卵細胞に精子が入ると(受精すると)、一つの卵細胞は2個、4個、8個、16個と分裂を繰り返して、最終的に60兆個の個体に成長します。この細胞が分裂する過程で、遺伝子の情報により、ある細胞は神経に、ある細胞は消化管に、ある細胞は心臓に、ある細胞は皮膚にと体の様々の組織に分化して行きます。従って、これらの過程からある一つの組織を作る細胞を選んで分化するように出来るようにする技術が再生医療と呼ばれるものです。
万能細胞は当初受精卵を用いていました(ES細胞と呼ばれています)。しかし受精卵を用いることは倫理上問題があるため、この研究には制限がかかりました。そこで、受精卵以外の細胞から万能細胞を作る技術の研究が世界中でなされ、その結果京都大学の山中先生がネズミの線維芽細胞を用いて、ある種のウイルスで遺伝子を操作して万能細胞を作ることに成功しました。「STAP細胞」はネズミのリンパ球を弱酸性の溶液につけて万能細胞を作ることが出来たという事で注目を集めたわけですが、未だ誰も再現実験には成功しておらず、その真偽は今後解明されていくでしょう。
再生医療は今の医療では治すことの出来ない難病患者さんに多くの福音をもたらすとして期待されています。特に一旦分化してしまうと、再生しないとされている神経の病気や、網膜の病気、心臓移植の必要な心筋症など、様々な分野で応用可能ですが、実際に広く使われるようになるまでにはもう少し時間がかかりそうです。

記憶と記録

2014-03-25

 私が堺北診療所に来てから15年が過ぎました。最近は診療所の近くを歩くと、よく患者さんから挨拶されます。ところが顔は覚えているのに名前が出てきません。「こんにちは。お元気そうですねー・・・」と、挨拶する間に記憶をフル回転して名前を思い出すようにします。しかし実際はほとんど思い出せません。「ところで先生、この前の検査の件ですが・・・」とか聞かれようものなら、いい加減な返事は出来ません。そこで「また診療所で詳しくお話しましょう」と、すばやく立ち去るようにしています。私は患者さんとの立ち話は苦手です。

 診察室に入ると、患者さんとはカルテを見ながらお話します。カルテは診察の度に記録しますから、それを見ることにより、今までの経緯を思い出しながらお話出来ます。診察室では患者さんの新たな訴えがあれば、そこで原因を考える思考回路に入ります。このように外来で患者さんを診察する過程は、コンピューターで言えば、ハードディスクとメモリーの関係にあります。カルテは記録媒体であるハードディスク、診察の時の私の作業はメモリー上の動作になります。従って診察が終了すると、その結果(診断、治療)はカルテに記録されるため、次にカルテを広げるまでは、よほどの気がかりな病状の人以外は私の記憶の中には残りません。もちろん全て忘れてしまうと、医師としての経験は蓄積されませんから、それらのうちから病気のエッセンスが取り出されて、知識と経験が蓄積されているものと思います。街中で患者さんから聞かれても、個人個人の病状、経過をなかなか思い出せないのはこういった理由です。

 実はこれと似た作業は、医者に限らず多くの職業で行っていることなのです。例えば弁護士は膨大な記憶力が要求されますが、やはり一人一人の案件は記録を見ながら行っています。ヒトの記憶は非常にあやふやで、本来忘れやすいものですが、それを補うために文字が発明され、記録という手段が出来ました。

 ところで記憶は、その動機付けが強ければ強いほど頭に残りやすいと言われています。テストの一夜漬けは、本来嫌なものを無理やり詰め込むので、テストが終わればすぐに忘れてしまいます。しかし花の好きな人は、多くの花の名前を知っていますし、鳥が好きな人はやはり多くの鳥の名前を知っています。そう考えると、認知症にならないためには、多くのことに興味を持って、いつも記憶の回路を回転させておくことが重要なように思います。

インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチン

2013-12-12

毎日寒い日が続いています。インフルエンザは例年12月末頃から流行し始めます。冬休みには一旦下火になりますが、1月末から2月にかけて再度流行の山があり、3月末頃には収束していきます。しかしここ数年は5月頃まで散発的に流行がみられるようになりました。

インフルエンザは突然の高熱、全身の関節痛で発症します。数日の発熱期間を過ぎ、おおよそ1週間で回復しますが、頑固な咳症状が続くことがあります。インフルエンザは、毎年ウイルスの形が変わるので、麻疹(はしか)や風疹と違って、何度でも罹ります。私も医者になりたての頃は毎年のようにインフルエンザに罹っていました。しかし最近はインフルエンザにはほとんど罹っていません。実は誰でも年をとるに従ってインフルエンザには罹りにくくなります。これはインフルエンザウイルスに対する免疫細胞が、過去のウイルスを記憶しているためです。またインフルエンザワクチンは毎年その冬に流行するウイルスの形を予想して作られますが、たとえ流行するウイルスの型に合わなかったとしても、ワクチンに含まれる抗原を免疫細胞は覚えています。従って毎年ワクチンを受ければ、それだけインフルエンザに罹る危険性は減っていきます。私が最近インフルエンザに罹らないのは、若い頃のインフルエンザ感染と毎年のワクチンの効果と思われます。

インフルエンザは若い人に多く発症しますが、健康な人はインフルエンザで死亡することはほとんどありません。しかし高齢者は、インフルエンザから肺炎を併発し死亡することがあります。インフルエンザが大流行すると、高齢者の死亡数も増加しており、これを超過死亡と呼んでいます。65歳以上の人はインフルエンザワクチンのほかに肺炎球菌ワクチンも受けておいたほうが良いでしょう。肺炎球菌ワクチンは、肺炎の起因菌のうちの一つである肺炎球菌に対するワクチンです。肺炎の起因菌は多数ありますが、肺炎球菌は起因菌全体のおよそ25%を占めていますので、予防効果は高いと言えます。また、肺炎になった時の医療費を節約する効果も期待されます。

肺炎球菌ワクチンの効果はおよそ10年間と言われていますが、5年経過すると2回目の接種が出来ます。堺市では昨年より75歳以上の高齢者には1回3000円の補助が出るようになりました。当院では75歳未満の人は6300円ですが、75歳以上の人は3300円で受ける事が出来ます。

抗生物質の話し

2013-11-22

 大分前になりますが、「仁」というテレビドラマがありました。主人公は若い脳外科医で、突然原因不明の頭痛に襲われ、病院の階段から転落すると、気づいたら江戸時代にタイムスリップしていたという物語です。主人公はCTなどの医療器械のない時代に、頭を打って意識のなくなった患者の脳内血腫を取り除いて、見事救命します。当時は漢方医学が主流で、西洋医学(蘭学)は異端の医学と考えられていました。まして、メスを使っての手術などは考えられなかった時代でした。彼は一躍江戸一番の名医と呼ばれるようになります。

物語はここから始まり、主人公は次々と当時は不治の病を治していくわけですが、そのなかで産褥熱にかかった花魁(おいらん)をペニシリンで治すシーンがあります。ペニシリンはイギリス人のフレミングが1929年に青カビの中から発見し、1941年に実用化された人類史上最初の抗生物質です。江戸時代にはもちろんペニシリンはありませんでしたから、主人公の仁は、青カビを使ってペニシリンを精製しました(あくまでドラマ上での話です)。

さて本物のペニシリンは第2次世界大戦中負傷した多くの兵士を救いました。それまでは、傷口から細菌が体の中に入って、敗血症で多くの兵士は亡くなっていたのです。ペニシリンは感染症の特効薬でしたが、その後ペニシリンの効かない細菌も出現するようになりました。すると、ペニシリンの効かない細菌を殺す新たな抗生物質が開発されました。ところが新しい抗生物質に打ち勝つ細菌がまた出現するようになりました。するとまた新しい抗生物質が開発され・・・今は新しい細菌と抗生物質のいたちごっこの時代に突入しています。

抗生物質の効かない細菌は耐性菌と呼ばれます。耐性菌が出現してきた原因の一つは、抗生物質の乱用があると言われています。例えば風邪はウイルスが原因ですが、ウイルスを殺す抗生物質はありません。しかし風邪を引いて熱があると医者も肺炎を恐れて抗生物質を処方しがちになり、患者さんも抗生物質を欲しがります。抗生物質は正しい使い方をすれば耐性菌の出現を防ぐことが出来ます。抗生物質は多くの感染症を治してきましたが、時代とともに、新たな問題も生み出しました。

苦しくない胃ガン健診

2013-09-02

毎年日本人のおよそ5万人が、胃ガンで亡くなっています。胃ガンはピロリ菌に侵された慢性胃炎(萎縮性胃炎)から発症することが明らかになってきました。そこでピロリ菌を除去すれば、胃ガンの発症は抑えることが出来ると考えられるため、今年の2月からピロリ菌の除菌療法が健康保険を使って行えるようになりました。

ピロリ菌は胃の中に寄生する細菌で、胃酸の分泌の少ない乳幼児期に飲み水などから感染します。ピロリ菌の保有率は年齢とともに上昇し、日本人の60歳以上では8割以上の人が保有していると言われています。一方20歳以下では2割以下と保有率は低いので、若い人がピロリ菌の検査を受け、ピロリ菌を持っていなければ、その人は将来胃ガンになる確率は非常に少ないと言えます。

胃の粘膜がピロリ菌によって荒廃し、萎縮してくると、胃粘膜から分泌される消化酵素も減ってきます。その一つがペプシノーゲンで、萎縮性胃炎になると、その値は減ってきます。すなわちペプシノーゲンの値が低いほど、胃ガンになりやすいということです。

東京大学のグループは血液検査でピロリ菌の有無と、ペプシノーゲンの値を調べることで、将来胃ガンになり易いかどうかを調べる健診を考案しました(ABC健診と呼ばれています)。すなわち、A.ピロリ菌が無くて、ペプシノーゲン値が正常であれば、胃ガンを発症する危険性は非常に少ない。B.ピロリ菌を有して、ペプシノーゲン値が正常値であれば除菌療法がお勧め。除菌に成功すれば、胃ガンになる確率は非常に少なくなる。C.ピロリ菌を有して、ペプシノーゲン値が低ければ、胃粘膜は萎縮が進行しており、除菌療法で成功しても、胃ガンになる確率は高い。D.ピロリ菌が無く、ペプシノーゲン値も低ければ、胃粘膜はピロリ菌も棲めないほど荒廃しているので、胃ガンを発症する確率がかなり高い。

ピロリ菌を持っている人が全員将来胃ガンを発症するわけではありません。胃の粘膜がピロリ菌に侵され、萎縮性胃炎を来たした人に多く発症します。胃ガンの年間発症率は、B群が0.1%、C群が0.2%、D群が1.25%と言われていますので、C群D群に該当する人は、毎年胃カメラ検査をしたほうが良いでしょう。当院でも今年からこのABC健診を導入します。日曜健診などの際、希望者する方は申し込んでください。(2013/5/29)

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