健康の広場

抗生物質の話し

2013-11-22

 大分前になりますが、「仁」というテレビドラマがありました。主人公は若い脳外科医で、突然原因不明の頭痛に襲われ、病院の階段から転落すると、気づいたら江戸時代にタイムスリップしていたという物語です。主人公はCTなどの医療器械のない時代に、頭を打って意識のなくなった患者の脳内血腫を取り除いて、見事救命します。当時は漢方医学が主流で、西洋医学(蘭学)は異端の医学と考えられていました。まして、メスを使っての手術などは考えられなかった時代でした。彼は一躍江戸一番の名医と呼ばれるようになります。

物語はここから始まり、主人公は次々と当時は不治の病を治していくわけですが、そのなかで産褥熱にかかった花魁(おいらん)をペニシリンで治すシーンがあります。ペニシリンはイギリス人のフレミングが1929年に青カビの中から発見し、1941年に実用化された人類史上最初の抗生物質です。江戸時代にはもちろんペニシリンはありませんでしたから、主人公の仁は、青カビを使ってペニシリンを精製しました(あくまでドラマ上での話です)。

さて本物のペニシリンは第2次世界大戦中負傷した多くの兵士を救いました。それまでは、傷口から細菌が体の中に入って、敗血症で多くの兵士は亡くなっていたのです。ペニシリンは感染症の特効薬でしたが、その後ペニシリンの効かない細菌も出現するようになりました。すると、ペニシリンの効かない細菌を殺す新たな抗生物質が開発されました。ところが新しい抗生物質に打ち勝つ細菌がまた出現するようになりました。するとまた新しい抗生物質が開発され・・・今は新しい細菌と抗生物質のいたちごっこの時代に突入しています。

抗生物質の効かない細菌は耐性菌と呼ばれます。耐性菌が出現してきた原因の一つは、抗生物質の乱用があると言われています。例えば風邪はウイルスが原因ですが、ウイルスを殺す抗生物質はありません。しかし風邪を引いて熱があると医者も肺炎を恐れて抗生物質を処方しがちになり、患者さんも抗生物質を欲しがります。抗生物質は正しい使い方をすれば耐性菌の出現を防ぐことが出来ます。抗生物質は多くの感染症を治してきましたが、時代とともに、新たな問題も生み出しました。

苦しくない胃ガン健診

2013-09-02

毎年日本人のおよそ5万人が、胃ガンで亡くなっています。胃ガンはピロリ菌に侵された慢性胃炎(萎縮性胃炎)から発症することが明らかになってきました。そこでピロリ菌を除去すれば、胃ガンの発症は抑えることが出来ると考えられるため、今年の2月からピロリ菌の除菌療法が健康保険を使って行えるようになりました。

ピロリ菌は胃の中に寄生する細菌で、胃酸の分泌の少ない乳幼児期に飲み水などから感染します。ピロリ菌の保有率は年齢とともに上昇し、日本人の60歳以上では8割以上の人が保有していると言われています。一方20歳以下では2割以下と保有率は低いので、若い人がピロリ菌の検査を受け、ピロリ菌を持っていなければ、その人は将来胃ガンになる確率は非常に少ないと言えます。

胃の粘膜がピロリ菌によって荒廃し、萎縮してくると、胃粘膜から分泌される消化酵素も減ってきます。その一つがペプシノーゲンで、萎縮性胃炎になると、その値は減ってきます。すなわちペプシノーゲンの値が低いほど、胃ガンになりやすいということです。

東京大学のグループは血液検査でピロリ菌の有無と、ペプシノーゲンの値を調べることで、将来胃ガンになり易いかどうかを調べる健診を考案しました(ABC健診と呼ばれています)。すなわち、A.ピロリ菌が無くて、ペプシノーゲン値が正常であれば、胃ガンを発症する危険性は非常に少ない。B.ピロリ菌を有して、ペプシノーゲン値が正常値であれば除菌療法がお勧め。除菌に成功すれば、胃ガンになる確率は非常に少なくなる。C.ピロリ菌を有して、ペプシノーゲン値が低ければ、胃粘膜は萎縮が進行しており、除菌療法で成功しても、胃ガンになる確率は高い。D.ピロリ菌が無く、ペプシノーゲン値も低ければ、胃粘膜はピロリ菌も棲めないほど荒廃しているので、胃ガンを発症する確率がかなり高い。

ピロリ菌を持っている人が全員将来胃ガンを発症するわけではありません。胃の粘膜がピロリ菌に侵され、萎縮性胃炎を来たした人に多く発症します。胃ガンの年間発症率は、B群が0.1%、C群が0.2%、D群が1.25%と言われていますので、C群D群に該当する人は、毎年胃カメラ検査をしたほうが良いでしょう。当院でも今年からこのABC健診を導入します。日曜健診などの際、希望者する方は申し込んでください。(2013/5/29)

終活の話し

2013-09-02

BS-NHKで放映中の「火野正平のこころ旅」を楽しみに観ています。視聴者の思い出の場所を自転車でめぐる旅ですが、その多くは山や高台の上。64歳の火野正平が上り坂をハアハア言いながら自転車をこいでいる姿に、思わず頑張れと声援してしまいます。そして下り坂になると「人生下り坂最高!」と叫ぶ姿にも共感してしまいます(ちなみに私は58歳、立派な人生下り坂です)今年になって高齢の身内を立て続けに見送りました。私も少しずつ自分の死を意識するようになってきました。

「自分の終末をどうして欲しいか」という事が最近話題になっています。自分が死ぬ間際の医療をどうして欲しいのか、お墓や、遺産はどうしたいのか、人生の終末に向けた活動ということで、「終活」と呼ばれています。昔は高齢で衰弱すると、みんな自宅で亡くなっていました。今は8割の人は病院で亡くなっています。施設や自宅での死は、2割しかありません。アンケートでは、多くの人が老衰や病気の末期でこれ以上回復の見込みのない時は、無駄な延命治療をして欲しくないと答えています。しかし現実は、ほとんどの人は病院で点滴や栄養チューブ、人工呼吸器などにつながれて死んでいきます。

ガンの末期については、最近は緩和医療の考え方が進み、これ以上の治療が望めない場合は、苦痛を取る医療に軸足が移されるようになりました。老衰の場合はどうでしょうか。昔は高齢の方が肺炎などで寝込んで、食事も摂れなくなると、徐々に衰弱し、最期は町医者が往診して看取っていました。今は胃瘻チューブを使えば、意識がなくても何年も生きることが出来ます。高齢者の胃瘻チューブについては、最近は少しずつ見直しがされるようになってきましたが、本人の意思が確認されない場合は、家族が判断を迫られます。自分は胃瘻はして欲しくないと思っていても、自分の家族となると多くの人は迷います。

自分が病気になって、治療の限界が来た時にはどうして欲しいのか、老衰や認知症になって、自分の意思も伝えることができなくなった時に、最期はどうして欲しいのか、元気なうちに家族に伝えておきましょう。自然な死を望むのであれば、尊厳死協会に入会し、自分の意思を文章に残しておくのも一つの方法です。(2013/8/31)

風疹とワクチン

2013-09-02

今年は昨年の同時期に比べ風疹にかかる人が急増しています。多くは20歳代から40歳代の男性で、特に大阪は全国に比べて多数発症しています。風疹は風疹ウイルスによっておこる急性の発疹性感染症です。症状は発熱、発疹、リンパ腺の腫れなどです。従来は子供の病気でしたが、最近は成人(20歳から40歳)の男性に多く発症しているのが特徴です。成人は子供に比べて症状が重く、関節痛を伴い、治るのに1週間ぐらいかかります。私も大学生の時に風疹にかかり、とてもしんどかった思い出があります。妊娠初期の女性が風疹にかかると、難聴、心疾患、白内障、発達の遅れなどの障がいを持った赤ちゃんが生まれる可能性があります(先天性風疹症候群と呼ばれています)。
風疹はワクチンを接種することにより予防出来ますが、ワクチンの効果は時間とともに低下していきます。従って、これから妊娠を希望する女性はワクチン接種をお勧めします。平成2年4月1日以前に生まれた人(23歳以上)は子供の頃に1回しかワクチン接種の機会がありませんでした。23歳から34歳の女性は中学生の時期に行う追加接種を受けていない可能性があるため(任意接種のため)、特にお勧めします。23歳以上の男性も2回目の追加接種は受けていない人が多いため、配偶者に感染させないためにもワクチン接種をお勧めします。風疹は子供の頃にかかると、2回目発症することはまれですが、子供の頃にかかっていたと思っていた風疹が実はリンゴ病などの他のウイルス性疾患だった可能性もあります。ワクチンをする前に風疹抗体検査を受けても構いませんが、風疹抗体の有無にかかわらず、ワクチンは接種したほうが良いでしょう。
堺市では平成25年5月23日か9月30日まで、19歳以上の市民で①妊娠を希望している女性と、②妊娠している女性の配偶者(婚姻関係は問いません)を対象に、麻しん風疹混合ワクチンの助成が受けられるようになりました。窓口負担1000円で受けられます。このワクチンは妊娠の可能性がある、あるいは妊娠中の女性は受けられません。また、ワクチン接種後2ヶ月間は避妊の必要があります。希望される方は、診療所にお問い合わせください。(2013/6/12)

食道ガンの話

2013-04-01

新年早々暗い話題で恐縮ですが、昨年末歌舞伎俳優の中村勘三郎さんが、食道癌の手術後しばらくして重症肺炎を来たし亡くなりました。57歳という若さでした。実は私と同い年で、勘九郎と呼ばれた子役の頃からテレビでも活躍しているのを知っていました。これから益々活躍が期待されていたのに、本当に残念です。

食道癌は全ての消化器癌の中でも、最も治療の困難な癌の一つです。60歳以上の男性に多く、年間で約1万人が亡くなっています。原因はアルコール、喫煙、熱い食事などと言われていますが、特にアルコールを多量摂取する人(ビールなら大瓶3本以上、日本酒なら3合以上、ウイスキーならダブルで5杯以上を20年以上)は飲まない人の5倍から8倍食道ガンになる可能性が高いと言われています。

食道癌の初期は全く無症状です。進行してくると、声がかすれたり、食べ物を食べた時に喉がつかえたり、胸のあたりに異物感を感じたりします。食道癌は進行が早く、これらの症状が出てきた時点では、ほとんどが進行癌です。癌が食道の粘膜内に留まっている段階は早期ガンで、これは人間ドックなどで、たまたま発見される場合が多いようです。この段階では、内視鏡で切除することが可能です。しかしガン細胞が粘膜深く到達して、リンパ節まで転移している場合は、手術か放射線療法、抗ガン剤治療が行われます。報道では勘三郎さんは初期の食道癌と言われていましたが、全くの早期癌ではなく、少し進行していたのではないでしょうか。

食道癌の手術は、ガン手術の中でも最も大掛かりな手術です。手術はうまくいっても、その後の合併症で亡くなる事が多いのです。勘三郎さんも12時間の手術に耐えましたが、その後重症の肺炎で命を落としました。食道癌は、放射線治療が比較的よく効くガンです。手術に比べ、体に対する侵襲度ははるかに低く、高齢者の場合はこちらのほうが選択されます。

食道癌を早期に発見することは困難です。バリウム検査でも、早期ガンは発見出来ません。アルコールを多く摂取する人は、毎年胃カメラ検査を受けて、その際食道も入念に観察してもらいましょう。一番の予防は、アルコールを控えることです。

健康寿命

2013-04-01

先日、厚生労働省は日本人の「健康寿命」を発表しました。健康寿命とは、「一生のうち、生活に支障なく過ごせる期間の平均」ということで、男性は70.42歳、女性は73.62歳でした。日本人の平均寿命が男性79.64歳、女性86.39歳ですから、亡くなるまでの不健康な期間は、男性が9.22年、女性が12.77年ということになります。厚生労働省の研究班によると、9年前と比べ、平均寿命は約1年半伸びたのに対し、健康寿命は約1年の伸びにとどまったそうです。すなわち、日本人の平均寿命は伸びたものの、不健康期間も伸びたということです。

ところで日本人の3大死亡原因は、1位悪性新生物(ガン)、2位心臓病、3位脳卒中です。しかし年齢別に見てみると、50歳から60歳代は、死亡原因の約5割がガンなのに対し、80歳以上では、ガンで亡くなる人は約2割にとどまり、それ以外の人は心臓病、肺炎、脳卒中、老衰などで亡くなります。すなわち、80歳を過ぎると、ガンに罹る危険性は減るものの、脳卒中の後遺症で日常生活が制限され、やがて寝たきりとなり、食事も摂れなくなり、肺炎、老衰で亡くなっていく。この期間が年々伸びて行っているというわけです。日本は今急速な高齢化社会を迎えています。平均寿命も年々伸びていますが、不健康な期間がそれだけ伸びているということでは、手放しで喜べないものがあります。

それでは、健康寿命を伸ばす方法はあるのでしょうか?多くのガンに関しては、早期発見、早期治療で治すことが出来る時代になりました。現在、各自治体では胃癌、肺癌、大腸癌、子宮癌、乳癌の検診が行われています。毎年市町村の広報誌に実施日、実施場所が載っていますので、注意して見ておくようにしましょう。大腸がん検診は、堺北診療所でも行っています。心臓病、脳卒中は、高血圧や糖尿病、脂質異常など生活習慣病の蓄積と加齢が原因となって発症するものです。これらは特定健診を受け、生活習慣を改善し治療を受けることで、進行を抑えることが出来ます。40歳を過ぎたら、毎年ガン検診と、特定健診を受けることが、元気で長生きの秘訣です。

胃ろうの話

2013-04-01

胃ろうとは、内視鏡を使って、胃とお腹の皮膚の間にトンネルを作り、直径5ミリメートル位のチューブを通して体の外から胃の中に水分と、栄養分を注入する手段です。もともとは、食道の狭くなった子供に対し、麻酔をかけて開腹して行われていました。1980年代よりアメリカで内視鏡を使って胃ろうを増設する方法が開発され、日本でも20年前位より急速に普及し、現在およそ40万人の人が胃ろう栄養を受けています。口から物を食べられない人にとっては、胃ろうは医療器具ではなく、その人の生活を支える福祉用具といえるでしょう。
脳卒中やパーキンソン病などで嚥下機能が低下すると、肺に食べ物が入って肺炎を起こしてしまいます。そのため、絶食にして点滴で水分と栄養分を補給する必要がありますが、腕の静脈から高カロリーの栄養分を点滴すると静脈炎を起こしてしまいます。そこで長期にわたって高カロリーの点滴を必要とする方に対しては、頚や胸の静脈から心臓に近い静脈に太いチューブを入れます(中心静脈栄養といいます)。しかしこの方法では、点滴の交換時には感染を起こさないよう細心の注意が必要であり、点滴チューブも数週間ごとに入れ替えなければなりません。従って高濃度の点滴治療を必要とする人は、いつまでたっても退院出来ません。脳卒中などの病気は発症して1週間ぐらいは濃厚な治療が必要ですが、急性期を過ぎると、リハビリで回復する人もいる一方で、意識障害や嚥下障害などの後遺症が残ってしまう人もいます。しかし点滴が必要な状態では、家に帰ることが出来ないので、急性期の病院に入院した患者さんは、長期入院の可能な病院への転院を迫られることになります。
胃ろうからの栄養補給は、中心静脈栄養に比べ感染の危険も少なく、管理が容易なため、老人施設や家庭でも行うことが出来ます。嚥下障害があっても、家で療養が出来るという点で、良い方法と言えます。しかし一方で、高齢で脳卒中を発症し、意識も無いような状態で、本人の意思確認もないまま担当医と家族の話し合いだけで胃ろうが造設されている現状もたくさんあります。昔は高齢で病気になり、自分で物が食べられなくなったら、老衰として、自宅で家族に囲まれ看取られていました。今は医学の発達のおかげで、本人の意思とは関係なく、家庭の事情、医療者の事情で、無理やり生かされている人達もたくさんいます。胃ろうの功罪は、医学関係者のみならず、一般の人たちも考える時期に来ているように思います。

漢方薬の話

2013-04-01

最近テレビで漢方薬が宣伝されることが多くなってきました。痛みを取る痛散湯、内臓脂肪を減らすナイシトール、痩せて膝の痛みを取るロコフィット(鶴瓶さんが宣伝しています)は、いずれも漢方薬です。
私が学生の頃、大学で教わったのは西洋医学のみで、漢方の講義はありませんでした。医師になっても、漢方薬なんて効かないと思っていました。同僚や先輩医師もそう思っていました。せいぜい処方するとすれば、風邪の時の葛根湯ぐらいでしたが、これも効いた感触はありませんでした。ところが最近は多くの大学で漢方の講座が開設され、漢方薬を処方する医師は急増しています。
実は私も最近漢方薬を多く処方しています。その理由のひとつは、漢方薬はじわじわ効くものと思っていたのが、すぐ効く漢方薬も多いということです。その代表は、こむら返りに効く芍薬甘草湯です。こむら返りは、明け方に多く起こりますが、就寝前に芍薬甘草湯を飲むと、8割ぐらいの人はこむら返りを起こさなくなります。また、こむら返りを起こしても、服用すれば直ちに治まります。大変便利な薬です。
風邪薬も、西洋薬では総合感冒剤のPL顆粒と鎮咳剤、去痰剤などですが、漢方薬では風邪の発症時期、症状、患者さんの体質、年齢に応じて10種類以上もあります。葛根湯は、患者さんに処方しても効かない風邪薬と思っていました。しかし風邪にかかった人が、風邪症状を訴えて病院に来るときは、風邪の初期は過ぎていることが多いのです。こういう人に葛根湯を飲んでも効きません。葛根湯は、風邪のごく初期(風邪気味かなと思った時)に飲んで効く漢方薬なのです。熱が出てからでは効きません。そんな時は、麻黄湯がよく効きます。麻黄湯はインフルエンザにも効果があり、タミフルよりも有効とも言われています。
便秘薬も西洋薬では、便を柔らかくするマグネシウム剤と大腸の運動を促すセンナ末が使われます。しかし漢方薬では、太っている人用、痩せている人用、体力のある人用、ない人用、若年者用、老年者用と10種類以上もあります。先日は父が便秘を訴えていたので、老人の便秘に有効な麻子仁丸を処方したところ、スッキリしたと、たいそう喜ばれました。
漢方薬は数千年の歴史を経て生き残った薬です。西洋薬に比べ副作用が少なく、価格が安いのが利点です。欠点は大半が粉末で、中には苦い薬もあるので、服用しづらいところでしょうか(甘い漢方薬もあります)。最近は街の薬局でも買えるようになりました。これから、益々需要は増えていくでしょう。

簡単な病気の落とし穴

2013-04-01

医者を長くやっていると、簡単な病気から、難しい病気、すぐ治る病気と、なかなか治らない病気と、様々な病気の人と出会います。私が医者になろうと思ったのは、高校3年生の時でした。当時はムツゴロウ先生(畑正憲)の本を読みまくり、将来は獣医か、生物学者になって、動物相手の仕事でもしようかなと、完全に現実逃避の気楽な生活を夢見ていました(獣医の先生、生物学者さんすみません)。ところが親を始め、周囲の反対で医学部に方向転換、今こうやって30年以上、現実直視の医者生活を続けています。文系志望だった高校の同級生は当時「医者なんて、風邪が診断出来たらええんちゃうの~。」と、口悪く言ってました。私は「そんな簡単な仕事やないやろ~」とは言うものの、正直そんなもんかな?とも思っていました。
風邪は病気の中では簡単な部類のものと、一般には思われていますが、これが意外に落とし穴がある。風邪は本来治療しなくても自然に治っていきます。これは風邪の原因がウイルスで、ウイルスが体内に入ってくるとこれを壊す抗体が産生されるからです。したがって、インフルエンザでも、タミフルなどの高価な抗ウイルス薬を飲まなくても、体の中には抗体が作られて大半は自然に治っていきます。しかし、風邪をこじらすと、肺炎になります。肺炎も軽いものは抗生物質を内服したり、点滴することで外来で治療出来ます。しかし肺炎の中にも、間質性肺炎という、厄介な肺炎もあり、命を落とすこともあります。
また、長引く咳は結核が原因の時もあります。3週間以上続く咳の患者さんが来たら、結核を疑いレントゲンを撮るというのは医学上の常識です。また、中年以降では肺癌が隠れていることもあります。でも、発熱、咳、痰症状を訴えて来た患者さんに全てに血液検査、レントゲン検査をするわけには行きません。簡単な風邪なのか、肺炎の初期なのか、結核なのか、はたまた肺癌なのか、風邪症状で始まる肺の病気は山ほどあります。昔から「風邪は万病のもと」と言っていますが、多くの肺の病気が風邪症状で始まるのです。
「医者なんて、風邪が診断出来たら、それでええんちゃうの~」とお気楽に言っていた同級生の言葉は、医者を長く続けていて「その通りやな」と実感しています。

糖尿病の話し(4)

2012-05-23

糖尿病の治療の基本は、食事療法と運動療法です。食事療法の3原則は、①適正なエネルギー量を、②栄養のバランス良く、③規則正しく食べることです。適正なエネルギーとは、身長から割り出した適正体重に、25~30カロリー掛け合わせたものです。例えば、身長が170cmとすると、適正体重は1.7×1.7×22=63.5㎏が適正体重になります。活動度の低い人や、高齢者は、これに25を掛けて1587カロリーが適正なカロリーになります。若くて活動度の高い人は、30を掛けて1905カロリーになります。栄養のバランスで言えば、炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルの5大栄養素を過不足なく摂取する必要があります。必要エネルギーのうち、炭水化物は55~60%、脂質20~25%、タンパク質15~20%が理想的です。外食の多い人は、揚げ物や炒め物は、カロリーが多くなるので控えた方が良いでしょう。

食事をすると血糖が上昇しますが、筋肉運動すると、糖分が筋肉に取り込まれ、血糖の上昇が抑えられます。体の中で最も大きな筋肉は、下肢の筋肉です。従って、食後に歩くのが最も効果的です。糖尿病の場合、食後30分で血糖は上昇し、その後2時間以上高値が続くので、食後30分後に30分位歩くのが良いでしょう。慣れれば1日1万歩を目指しましょう。散歩は、心肺機能の維持、向上も期待されます。

薬物療法には、経口糖尿病薬とインスリンがあります。経口糖尿病薬は、現在作用機序によって6種類のものが販売されています。肥満で内臓脂肪が多い人はインスリンが多く分泌されているのに、細胞がインスリンに抵抗を示していると考えられるため、インスリンの効果を助ける薬を使います。一方、肥満はそれほどでもない人は、インスリンの分泌が減っていると考えられるため、インスリン分泌促進薬を使います。インスリンの分泌の状態は血液や尿の検査で調べることが出来ます。インスリンが枯渇している患者さんには、インスリン注射を使用します。インスリンをいつの時点で使うかは、糖尿病の発症の仕方や、患者さんの希望で変わってきます。

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